第5回DG-Lab研究会開催報告(その2)

【研究発表】 

研究発表パートでは、山森裕毅さんによる「力能記号論についての準備的考察」と題されたレクチャーが行われました。山森さんは、まず、ガタリ記号論が展開される時期を以下の四つに分類されます。

  1. シニフィアン期:「記号から記号へ」(1966)、『精神分析と横断性』(1972))
  2. 「力能記号」(signe de puissance)期:『アンチ・オイディプス草稿』、『アンチ・オイディプス』(1972)
  3. 「非シニフィアン」期:(『分子革命』(1977))
  4. 記号論後景期(「ガタリのセミナー記録」:1980-1988)、『分裂分析地図作成法』(1989)

この区分に沿って、自身のこれまでの研究の道のりと成果を確認されました。これらの研究を通して、一貫したガタリ記号論を抽出するとともに、これをさまざまな臨床的現場へ実現する可能性を探ることを目的とされています。

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とりわけ、今回のレクチャーで重点的に話されたのは、『アンチ・オイディプス草稿』と『アンチ・オイディプス』に見出される「力能記号」と呼ばれるものについてです。力能記号とは何か、力能記号は欲望とどのような関係にあるのか、なぜ「力能記号」と呼ばれるのか、これらの問いをさまざまな引用の参照、分析を通して考察されました。

ガタリの言う力能記号とは、シニフィアン連鎖とも、意味論的な語と内容の一対一対応とも異なり、その内実を正確に捉えることはきわめて困難ですが、リオタール『言説・形象』における「フィギュール」概念、あるいは、ラカンの”trait unaire”との関連を明らかにすることがひとつの鍵となるようです。個人的に印象的だったのは、『アンチ・オイディプス草稿』からの以下の引用です。

「力能記号による共立平面の多様体の理論のみが、コードの剰余価値という現象を考察することが出来ると私には思われる。つまり、記号のレベルにおいて作動するものは現実においても実効的であり、また現実の出来事の生産であるということ。」(337頁)

ここではもはや、受信者と発信者、意味内容(の同一性)を前提とするコードモデルも、あるいは、意味内容の現実性を幻想としてのみ認め、そこに解釈を介入させる欠如モデルも採用されていません。むしろ、こうした理論に対抗し、記号が直接的に現実を生産するものであるということをガタリの力能記号は概念化しようとしているように思われます(この論点は、『アンチ・オイディプス』における「欲望する生産」に直結するものです)。

もちろん、ここで言われている現実とはどの水準で考えられるべきものなのかということが直ちに問題となります。それが物質的現実(DNA、RNA等)なのか、あるいは主体形成にかかわる要因(情動、行為)なのか、問題設定の違いによって、議論構成やその方向性は大きく変化するはずです。しかし、ガタリ記号論の中心に力能記号を位置づけ、(力能)記号が、社会的主体化とは異なる(どのような)主観性を(どのように)生産しうるのかを明らかにすることは、臨床=治療という場面においても重要な意味を持つのみならず、これによってガタリの諸概念や理論的図式は、さまざまな場面へと応用可能となるように思われます。


レクチャーのあと、山森さんとの個人的なやりとりのなかで話題にのぼったのが、マウリツィオ・ラッツアラートのガタリ記号論 SIGNS AND MACHINES:
CAPITALISM AND THE PRODUCTION OF SUBJECTIVITY, Semiotext(e), 2014.でした。ラッツアラートは、政治-経済という枠組みを設定した上で、そこにおける主体の生産プロセスを問題とします。ラッツアラートの趣旨は、政治(ランシエール)、生産(パオロ・ヴィルノ)、主体の構築(ジジェク、バトラー)という領域において言語に中心的な役割を付与する理論に対抗するものとしてガタリの概念(機械上従属、主体的変容、美学的パラディグムなど)を位置づけることで、資本主義による捕捉から独立し、自立した主体化の過程を提示することにあるようです。

9781584351306

  • Signs and Machines: Capitalism and the Production of Subjectivity (Semiotext(e) / Foreign Agents)
  • Publisher: Semiotext(e) (May 2, 2014)
  • ISBN: 978-1584351306
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